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学生時代
4回ある夏休みのほとんどを使って 日本をあちこち オートバイで旅をした
もちろんお金はないので テントと寝袋の野宿旅だ
何処へいくとか 何を見るとか 目的はとくになく
ただ家の前の道が
ほんとうにどこまで続いているのか
見にいったのだ
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高速道路は使わず
海ぞいを 山あいを 畑のなかを走った
宿にもめったに泊まらず
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古めかしい瓦屋根の銭湯に浸かり
地元の人に教えてもらった居酒屋で
初めて会った人たちとお酒を呑んだ
私は旅人だった
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そんな旅の途中
太陽に熱せられ 焼けつくヘルメット
伸びすぎた髪がうっとうしくなり 私は散髪をすることにした
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小さな漁港の町 一軒の床屋
潮風を浴び 白いペンキがところどころ剥がれた木製の扉
初めて会う私をマスターは笑顔で迎えてくれた
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日に焼けた男性が二人 でも客ではないようだ
大きな声で笑っていた 途中 ママが加わった
学校帰りの小学生まで店に入ってきて ソファで漫画を読み始めた
みんな思い思いに楽しそうだ
◇
髪を切りながら私も いつしかその輪に加わっていた
一緒になって笑っているうちに一瞬
この町の人間になれたような気がした
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それからも私はオートバイで旅にでれば
ゆきずりの町で床屋に立ち寄った
何だか違う土地の人間になったかのような
まったく新しく生まれ変われたかのような
実に晴れ晴れしい気分になれるのであった
◇
今でも仕事で初めて訪れた街で
入ったことのないお店の前に立つと
なんだか旅の途中のようで胸が躍る
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